教育学メジャー 西村幹子 准教授

言語を紐解いていくと、政治や文化、格差といった社会的な背景が見え隠れします。

教育学、開発研究、平和研究、ジェンダー・セクシュアリティ研究メジャー[Education, Development Studies, Peace Studies, Gender and Sexuality] 西村幹子 准教授

母語で学ぶというアイデンティティ形成に関する欲もあれば、将来生きていくために必要な言語習得という欲もある。多民族・多文化国家であればあるほど、欲求も複雑化していきます。日本では考えが及ばない問題ではないでしょうか。アフリカでは「書く言語が無い」民族もいます。では教科書をどう作り、どう教育するのか、といった状況も起こりうるのです。

南アフリカにおいて、かつてアパルトヘイトから解放され、誰もが学校教育を受けることが可能になった時代がありました。しかし蓋を開けてみると、アフリカーンス語と英語で開講されている授業があり、アフリカーンス語が話せないアフリカ系の人々はアフリカーンス語で開講されている授業が履修できない、また試験の前に2言語で開講されている授業でアフリカーンス語で開講されている授業では試験の出題範囲が公表され、一方で英語で開講されている授業では公表されないといった不平等も生じています。「隠れたカリキュラム」などと教育学では言いますが、表向きは民族融和といいつつも、実際に起きていることは違う。これまで築いた地位を脅かされたくないという支配的な人種・民族があらゆる手段で差別化を図ろうとしていて、その手段の1つが「言語」であるともいえるでしょう。誰かがその情報にアクセスしたいと考える際に、それをシャットアウトすることを可能にするのが「言語」だと言えます。
言語を紐解いていくと、政治や文化、格差といった社会的な背景が見え隠れしますね。

人間は平和を築きもすれば、破壊もする。求めもすれば、否定もする。自己矛盾を抱えた生き物だとも言えますね。ただ、人間がこの世に生まれた瞬間においては、価値観や態度といった性質を持って生まれるわけではありません。後天的に社会から、環境から学び、身につけていくものだと思います。